
こんにちはteruruです。
今回は、音楽的な実験的な試みをアルバムを出すごとに行っていたバンド『Weather Report』の1977年に発売されたアルバム『Heavy Weather』をご案内致します。
Weather Reportのアルバムは全て聴いていますが、どのアルバムも実験的ですので、集中して聴くことは結構たいへんかもしれません。ただ今回の『ヘヴィー・ウェザー』は実験的ではありながら、メロディーも楽曲もキャッチでフュージョン・ミュージックの事を知らない人でも楽しんで試聴出来るアルバムだと思っています。
このアルバムでは『ウキウキする』『感動する』『クールに興奮する』ような感情が得られると思います。発売されて何十年も経っていますが現在でも新鮮に聴くことが出来ます。このバンドはジャコ・パストリアスが在籍していたという事で有名ですが、本来はジョー・ザビヌルとウェイン・ショーターの双頭のバンドになります。
ジョー・ザビヌルはキャノンボール・アダレイの『マーシー・マーシー・マーシー』やマイルス・デイヴィスの『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチェズ・ブリュー』に参加して有名になりました。代表曲は『マーシー・マーシー・マーシー』『ミッドナイト・ムード』『イン・ア・サイレント・ウェイ』、また今回ご案内するアルバム『ヘヴィー・ウェザー』の『バードランド』もその一つになります。オーストリア出身の白人ですが、黒人に負けないブラック・フィーリングを持った楽曲を作る才能を持っている才人です。フェンダー・ローズというエレクトリック・キーボードの先駆者にもなります。
ウェイン・ショーターはアート・ブレイキーというジャズ・ドラマーのバンドのメッセンジャーズで音楽監督を行っていた後、1965年にマイルス・デイヴィスのバンドに加入しました。この時期は、マイルス・デイヴィスという有名アイコンが居ながら、モード・ジャズ期にはほぼメイン・ソングライター的な役割でもありました。この時期の代表曲は『オービット』『フット・プリンツ』『マスクァレロ』『ネフィルティティ』『ピノキオ』等の楽曲を残しています。マイルス・デイヴィスにも楽曲アレンジを訂正されないというほどの優秀な作曲家になります。特徴はサックスの音色が最高に美しい事、フリー・ジャズ専門タイプではないが、先の読めないようなフレーズをよく奏でます。
ジョー・ザビヌルとウェイン・ショーターは、マイルス・デイヴィスのアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』『ビッチェズ・ブリュー』のレコーディングで一緒になったことがきっかけでバンドを結成されたと思われます。
実験的で完成度が高いポイント
- ロック・ラテン・民族音楽との融合
- ジャコ・パストリアスの正式参加
- ジョー・ザビヌルのプロデュース能力
ロック・ラテン・民族音楽との融合
ウェザー・リポートの音楽の特徴としては、ジャズ寄りではなく『ロック的(ファンク的かもしれません)』『ラテン』『民族音楽』指向の楽曲が多いです。『ヘヴィー・ウェザー』でも民族音楽やラテン的なテイストの曲が多く、楽曲アレンジにもマッチしています。アレックス・アクーニャとマノロ・バドレーナがパーカッションで参加していることもあると思います。いつものウェザー・リポートでしたら、ダークで独特なグルーブ感の楽曲でアプローチが多いですが『ヘヴィー・ウェザー』は比較的に明るい曲調の物が多いと思います。
ジョー・ザビヌルは、後年はアフリカ・ミュージック趣向のアルバムを多く制作していますし、ウェイン・ショーターもブラジル趣向のアルバム『ネイティブ・ダンサー』等を制作しています。
今回のアルバムだと『アルルカン』『パラディアム』『ジャグラー』で特徴がよく出ていると思います。
ジャコ・パストリアスの正式参加
ジャコ・パストリアスは、前回のアルバム『ブラック・マーケット』で数曲参加しましたが、今回正式に全面参加したアルバムになります。
彼がバンドに入ったことで、各段バンドのレベルが上がったと思います。特徴としては、エレクトリック・ベース・プレイヤーですが、ベースの音を区切っているフレットを外していて、アコースティック・ベース的なサウンドを出しています。丸みのある、分厚いサウンドでわかりやすいと思います。『バードランド』では、ベースでハーモニクスを使用してメロディも出してプレイを行ったりしています。また独自にアレンジしているウォーキング・ベースも独特です。
ウェザー・リポートにもたらしたことは『ロック的』または『ファンク的なスピリットを持った楽曲』『ワン・アンド・オンリーなプレイ』を提供しています。今回のアルバムの『ティーン・タウン』『ハヴォナ』を聴いて頂ければわかると思います。
ジョー・ザビヌルのプロデュース能力
ウェザー・リポートのアルバムは、発売される度に全く異なる趣向のアルバムを発表していました。ですが今回の『ヘヴィー・ウェザー』はフュージョン・ミュージックに触れたことのない人でも楽しめるアルバムだと思います。
他のアルバムでお薦めできるとしたら、前作の『ブラック・マーケット』、またはライブアルバム『8:30』ぐらいではないかと思います。その他のアルバムだと少し敷居が高いなと思っています。
というわけで、このような素晴らしいアルバムにプロデュースしたジョー・ザビヌルに感謝したいです。その後『ヘヴィー・ウェザー』に並ぶようなアルバムが出ていないので、奇跡的なアルバムでもあると思っています。
Albumlist |
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1. Birdland |
2. A Remark You Made |
3. Teen Town |
4. Harlequin |
5. Rumba Mamá |
6. Palladíum |
7. The Juggler |
8. Havona |
Players |
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Joe Zawinul – Keyboards, Fender Rhodes, Piano, Melodica, Tabla |
Wayne Shorter – Soprano Saxophone, Tenor Saxophone |
Jaco Pastorius – Fretless Electric Bass, Mandocello, Steel Drums |
Alex Acuña – Drum, Congas, Handclaps |
Manolo Badrena – Congas, Tambourine, Timbales |
楽曲解説
1. Birdland
ジャズ・オーケストラを小規模で再現したようなシャッフルでキャッチな楽曲。
かなりオーバー・ダビングを行っていて分厚いサウンドになっています。『シンセサイザー』『エレクトリック・ピアノ』『ソプラノ・サックス』『テナー・サックス』『エレクトリック・ベース』どれもシンプルなメロディーをサポートする為にさまざまなアイディアが試されています。グルーブ感が最高です。ウェザー・リポートで最も有名な楽曲。
2. A Remark You Made
悲しさが隠れる美しいバラード・ソング。
ウェイン・ショーターのテナー・サックスでメロディーからメロディーが始まっていますが、バトンを渡すように、シンセサイザーに変わったり、ベースに変わってメロディーを奏でています。このチーム・プレイは見事だと思います。キーボード、ベースとも空間を生かした伴奏も素晴らしいです。
3. Teen Town
メカニカル的なファンキーな楽曲。
ブラスのイメージのようなフレーズの伴奏の中で、メカニカル的なベースラインをプレイしています。ジャコ・パストリアスらしい複雑なフレーズを展開しています。ウェザー・リポートらしいコード進行とポリフォニック・シンセサイザーで緊張感を出しています。
4. Harlequin
ミディアム・テンポで浮遊するような美しいコード進行の楽曲。
独自の浮遊するような空間の楽曲で、ウェイン・ショーターらしい展開の楽曲。美しいコード進行に民族音楽のようなメロディがよいと思います。ウェイン・ショーターの展開の読めないフレーズも最高です。エレクトリック・ピアノのようなサウンドでのフレーズの伴奏も素晴らしいです。
5. Rumba Mamá
アレックス・アクーニャとマノロ・バドレーナのパーカッション・ソロ。
マノロ・バドレーナのヴォイスとティンバス、アレックス・アクーニャのコンガスとタムタムで迫力のあるラテン的なパーカッション・ソロを展開しています。『Palladíum』の前奏曲のようななイメージにもなっています。
6. Palladíum
ノリのよいパワフルなラテン的な楽曲。
強烈なベースサウンドから始まります。エレクトリック・ベースかシンセサイザーだと思います。いたるところでポリフォニック・シンセサイザーでサポートしているので鮮やかに聴こえます。終盤の方で、スティール・ドラムが聴こえてくるので、トロピカルな雰囲気も味わえます。
7. The Juggler
民族音楽のような不思議な楽曲。
民族音楽をベースににしているようなフィーリングを出しています。ウェイン・ショーターの先の読めないソプラノ・サックス・フレーズとキーボードの緊張感のある伴奏とマッチしていてとてもよいと思います。少しダークな感じでウェザー・リポートらしいサウンドかもしれません。
8. Havona
ロッスピリットに溢れたダイナミックな楽曲。
ジャコ・パストリアスの独特のウォーキング・ベースでグルーブ感を出しています。ジョー・ザビヌルのアグレッシブで鋭いエレクトリック・ピアノのフレーズ、突き刺すようなウェイン・ショーターのソプラノ・サックスも最高です。ジャコ・パストリアスというとファンキーなグルーブのイメージの楽曲が多いですが、かっこいいロック的な楽曲も書くんだなと感心しました。
その他関連記事はこちらになります。
『静寂なフュージョン・ミュージックの幕開け『In A Silent Way』 / Miles Davis』
ジョー・ザビヌル関連記事はこちらになります。
『ジャズ・ファンクの名盤『Mercy, Mercy, Mercy! Live At “The Club”』 / Cannonball Adderley』
ウェイン・ショーター関連記事はこちらになります。
『ハイテンションで破壊的なパフォーマンス『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It’s About That Time』 / Miles Davis』
『瞬発的に鋭く反応する新進ジャズ『Footprints Live!』 / Wayne Shorter』
Weather Reportの1977年に発売されたアルバム『Heavy Weather』をご案内致しました。
気軽に楽しめる名盤ですので、ぜひご試聴頂きたいと思います。