こんにちは、teruruです。
今回、1970年に録音されて2001年に発売された『Miles Davis』のライブ・アルバム『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It’s About That Time』をご案内致します。
本来でしたら、1970年に発売された『マイルス・ディヴィス』のアルバム『ビッチェズ・ブリュー』を案内するべきだろうと思うかもしれませんが、間違いなく『ビッチェズ・ブリュー』は素晴らしい演奏を行っていますが、ただ収録曲の『ファラオズ・ダンス』『ビッチェズ・ブリュー』等は、20分から30分ほどの大作で、他にも10分以上の楽曲が複数収録されているので、はっきり言って『フュージョン・ミュージック』に慣れていない人にとって『ビッチェズ・ブリュー』を試聴することは、かなり苦痛になるのではないかと思いました。
筆者としては、『ジャズ・ミュージック』『フュージョン・ミュージック』の愛好家にお薦めをしたい訳ではないので『ライブ・アット・ザ・フィルモア・イースト』をご案内することにしました。
1970年の『フィルモア・イースト』での『ファースト・ステージをCD1枚目』に『セカンド・ステージをCD2枚目』に収録しています。このライブは凄まじいテンションの演奏で破壊的なパフォーマンスが繰り広げられています。
メンバーは、『ロスト・クインテット』と呼ばれたメンバーに『パーカッション・プレイヤー』の『アイアート・モレイラ』が加わったメンバーでプレイされています。初めて聴いたとしたら、演奏の密度に圧倒されると思います。『ほとんどロックじゃないか』と思うのではないかと予想します。『ビッチェズ・ブリュー』が静的な作品であるとしたら、『ライブ・アット・ザ・フィルモア・イースト』は動的な作品だと思っています。
ハイテンションで破壊的なパフォーマンスのポイント
- チック・コリアの凶器的なキーボード・サウンドとプレイ
- ユニークなアイアート・モレイラのパーカッション・プレイ
- 劇的に変化したサウンドとプレイ・スタイル
チック・コリアの凶器的なキーボード・サウンドとプレイ
とにかくこの時の『チック・コリア』のプレイは凶器染みたプレイで、『フロント・メンバー』の『マイルス・ディヴィス』と『ウェイン・ショーター』を煽りまくっています。
『フェンダー・ローズ』という『エレクトリック・ピアノ』に『リング・モジュレイター』という『エフェクト』をかける事によって、『歪んだエレクトリック・ピアノ・サウンド』を作りあげています。また手数の多い伴奏を行っていることもあり、ものすごくインパクトを出しています。
そのプレイに煽られた、『マイルス・ディヴィス』と『ウェイン・ショーター』は凄みのある素晴らしいプレイを行っています。『ライブ・アット・ザ・フィルモア・イースト』の1ヶ月前に録音されたライブ・アルバム『ブラック・ビューティー:マイルス・アット・フィルモア・ウエスト』でも同等なテンションでプレイを行っています。
ただ『ライブ・アット・ザ・フィルモア・イースト』の1ヶ月後に録音されたライブ・アルバム『マイルス・アット・フィルモア』から、『オルガン』に『キース・ジャレット』が加わったことで、主導権が『キース・ジャレット』に変わった為だと思われるが、その流れで『ハード・ロック的なアプローチ』から『グルーブ感を重視したようなファンキー・ミュージック的なスタイル』に変化してしまったことで『チック・コリア』のプレイが控えめになってしまったように感じます。
そのため、破壊的なパフォーマンスということは、『チック・コリア』の存在が影響していると思っています。
ユニークなアイアート・モレイラのパーカッション・プレイ
この年のツアーより、『アイアート・モレイラ』が『パーカッション・プレイヤー』として参加しました。
『パーカッション・プレイヤー』が『マイルス・ディヴィス』のツアーに参加することは初めての試みだったようで、ただ効果は抜群でした。
『クイーカ』という『人の声のようなサウンドを出す楽器』や『おもちゃ箱をひっくり返したようなパーカッション・サウンド』は、『チック・コリアのキーボード・サウンド』と相まって、何とも言えないユニークなサウンドを表現していると思います。
特に『ディレクションズ』での『クイーカ』の使い方もかなりユニークだと思います。
『マイルス・デイヴィス』は、このツアーで『アイアート・モレイラ』のプレイが素晴らしかった為、以後のツアーでは、『パーカッション・プレイヤー』が同行することになります。
劇的に変化したサウンドとプレイ・スタイル
特に1970年のツアーより、『マイルス・デイヴィス』のバンドのライブのプレイ・スタイルが『フュージョン・ミュージック』らしく劇的に変わったと思っています。
『マイルス・ディヴィス』のアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』発売後のツアーのライブ・アルバム『1969マイルス:フェスティバル・デ・ジャン・ピンズ』では、『ジャズ・ミュージックにロック的な要素をプラス』して、『ジャズ・ロック的なアプローチ』でライブを行っていましたが、1970年のツアーより以前のジャズ・ミュージックの要素をそぎ落として、パワフルなロック的なサウンドに変貌していることがわかります。
このサウンドの変貌によって、『ビッチェズ・ブリュー』の楽曲群のパワーが最大限に発揮していると思っています。1969年から1970年にかけてサウンドの変革が起こり『ライブ・アット・ザ・フィルモア・イースト』という作品が誕生したのだと思っています。
Albumlist |
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First Set |
1. Directions |
2. Spanish Key |
3. Masqualero |
4. It’s About That Time |
Second Set |
5. Directions |
6. Miles Runs The Voodoo Down |
7. Bitches Brew |
8. Spanish Key |
9. Willie Nelson |
Players |
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Miles Davis – Trumpet |
Wayne Shorter – Soprano Sax, Tenor Sax |
Chick Corea – Fender Rhodes |
Dave Holland – Electric Bass |
Jack DeJohnette – Drum |
Airto Moreira – Percussion |
楽曲解説
1. Directions
オリジナルは、マイルス・デイヴィスのコンピレーション・アルバム『ディレクションズ』の収録曲。
ワンコードでグルーブ感があるベースが印象的な楽曲。
オリジナルでは、テーマでパワー感のある『ホーン・アンサンブル』で演奏されている。ワンコード内でベースを繰り返している為にインパクトがある。
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
『ライブ・アット・ザ・フィルモア・イースト』では、ベースがグルーブ感あるフレーズにアレンジされてプレイされています。『グルーブ感のあるハード・ロック的』なアレンジになっています。
2. Spanish Key
オリジナルは、マイルス・デイヴィスのアルバム『ビッチェズ・ブリュー』の収録曲。
4ビートでパワフルなスパニッシュフィーリングの楽曲。
『ジャングル・ビート的』に響くリズムの中で、アグレッシブに『スパニッシュ的なメロディー』を表現している楽曲。オリジナルでは、『ジョン・マクラフリン』のバネのような『カッティング・ギター」、『ベニー・モウピン』の煽るような『バス・クラリネット』が印象的です。
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
『ビッチェズ・ブリュー』以上にパワフルにアグレッシブに演奏されています。『マイルス・デイヴィス』の攻撃的なプレイ、『ウェイン・ショーター』の知的なフレージングが素晴らしいです。
3. Masqualero
オリジナルは、マイルス・デイヴィスのアルバム『ソーサラー』の収録曲。
楽曲については、下側のリンク『瞬発的に鋭く反応する新進ジャズ『Footprints Live!』 / Wayne Shorter』を参照して頂きたいと思います。
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
オリジナルのイメージを崩さない素晴らしいアレンジでプレイされています。音数はかなり多いですが、フィーリングが全く損なわれていない点が凄いです。『ジャズ・アレンジ』でも『フュージョン・アレンジ』でも万能に対応出来る素晴らしい楽曲です。
4. It's About That Time
オリジナルは、マイルス・デイヴィスのアルバム『イン・ア・サイレント・ウェイ』の収録曲。
楽曲については、下側のリンク『静寂なフュージョン・ミュージックの幕開け『In A Silent Way』 / Miles Davis』を参照して頂きたいと思います。
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
『ジャック・ディジョネット』のパワフルなドラム・アレンジとタイトで細かいアレンジの効いた『デイブ・ホランド』のベースがカッコよくアレンジされていて最高です。『マイルス・デイヴィス』も『ウェイン・ショーター』も爽快でスムーズなプレイが素晴らしいです。
5. Directions
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
ファースト・セットと同等レベルの素晴らしい演奏が展開されています。同等レベルで再現できること自体、凄いと思います。
6. Miles Runs The Voodoo Down
オリジナルは、マイルス・デイヴィスのアルバム『ビッチェズ・ブリュー』の収録曲。
タイミングが独特なベース・ラインを中心とした癖のある楽曲。
『先の読めないベース・ライン』が印象的な楽曲。独特のタイム感がユニークな楽曲にしていると思います。
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
最初はミディアム・テンポですが、中間からテンポが速くなり、『独特でタイトなベース・プレイ』は素晴らしいです。
7. Bitches Brew
オリジナルは、マイルス・デイヴィスのアルバム『ビッチェズ・ブリュー』の収録曲。
ヘヴィーなワンパターンのベース・ラインが印象的な楽曲。
ミディアム・テンポのリズムに乗って、歌うようにメロディーがプレイされています。オリジナルでは、『27分』の大作になっています。
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
『チック・コリア』の『フェンダー・ローズ』でかなりヘヴィーなアプローチを行っています。『ワウ・ベース』もインパクトがあります。
8. Spanish Key
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
ファースト・セットよりテンポを落して、グルーブ感を出しています。先の読めない『デイブ・ホランド』のベースがタイトに決まっていてよいと思います。
9. Willie Nelson
オリジナルは、マイルス・デイヴィスのコンピレーション・アルバム『ディレクションズ』の収録曲。
ファンキーなベース・フレーズがユニークな楽曲。
オリジナルでは、楽曲が進むごとに『ベース・ライン』を変化させているが、フィーリングを崩さないことは凄いと思います。『ジャック・ディジョネット』の猛烈なスネアの叩きもよいと思います。
『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』では
オリジナルほどの『ベース・アレンジ』は行われずにプレイされています。中間の『ジャック・ディジョネット』の『ドラム・ソロ』は凄みがあります。
マイルス・デイヴィス関連記事はこちらになります。
『静寂なフュージョン・ミュージックの幕開け『In A Silent Way』 / Miles Davis』
『タイトでクールなファンク・サウンド『A Tribute To Jack Johnson』 / Miles Davis』
『反転的なコンセプト・アルバム『Live-Evil』 / Miles Davis』
『クールで熱いライブ・アルバム『We Want Miles』 / Miles Davis』
『クールで最高の完成度を誇るアルバム『TUTU』/ Miles Davis』
ウェイン・ショーター関連記事はこちらになります。
『瞬発的に鋭く反応する新進ジャズ『Footprints Live!』 / Wayne Shorter』
『実験的なバンドの完成度を誇る『Heavy Weather』 / Weather Report』
今回、1970年に録音されて2001年に発売された『Miles Davis』のライブ・アルバム『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It’s About That Time』をご案内致しました。
機会がありましたら、ご試聴ください。