今回は、1986年に発売された『Miles Davis』のアルバム『TUTU』をご案内致します。
このアルバムは、1曲のみ作曲した『ジョージ・デューク』の楽曲と『スクリッティ・ポリッティ』のカバー曲以外は、以前バンドのメンバーであった『マーカス・ミラー』が全曲作曲したアルバムになります。
アルバム全体がクールに統一されていて、納得のいく完成度を誇る名盤です。筆者自身『マイルス・デイヴィス』のオリジナル・アルバムの中で、特に気に入っているアルバムになります。
素晴らしく質が高い楽曲『マイルス・ディヴィスの歌うようなメロディー吹き回し』『アルバムの統一感』は完璧です。
年代は違うがアルバムのクオリティは、1959年に発売された『マイルス・デイヴィス』のアルバム『カインド・オブ・ブルー』に匹敵するのではないかと思います。このアルバムは、むしろ現在だからこそ『カインド・オブ・ブルー』よりも『TUTU』を聴いてほしいと思います。
『フュージョン・ミュージック初心者』または『マイルス・デイヴィスの音楽に触れたことのない人』にも良いアルバムだと思います。
クールで完成度を誇るアルバムのポイント
- マーカス・ミラーのプロデュース
- レギュラー・バンドがないまま制作されたアルバム
- 楽曲とトランペット・サウンドの完全調和
マーカス・ミラーのプロデュース
『プロデューサー』は『トミー・リピューマ』ですが彼はあくまでも全体の調整役でサウンド面は『マーカス・ミラー』が担当しています。
『マーカス・ミラー』のサウンドのイメージとして、『プリンスのような打ち込みサウンド』と『ファンキー過ぎないサウンド』のイメージがあります。
そういった意味では、『マイルス・デイヴィスが当時望んでいるサウンド』と『今までのマイルス・デイヴィスのクールなイメージ』と完璧にマッチしていて素晴らしいと思います。
特に『マーカス・ミラーのソングライティング力』『ディレクション力の凄さ』と『マイルス・デイヴィスに対する音楽の理解力』が素晴らしいです。
『マーカス・ミラー』は『デイヴィッド・サンボーン』等以外にも素晴らしいアルバムをたくさん『プロデュース』していますが、特に『TUTU』は『マーカス・ミラー』の最高傑作だと思います。
レギュラー・バンドがないまま制作されたアルバム
このアルバム作成時には、前作『ユア・アンダー・アレスト』のツアー後にほぼバンド自体が解体状態で、作成が始まったようですが、きっかけは『ジョージ・デューク』が送ってきた楽曲であったとしても、実質『マイルス・デイヴィスとマーカス・ミラーのコラボ』と言っても間違いないでしょう。
様々なプレイヤーが参加していますが、あくまでも今回は『マーカス・ミラー』以外は、機械的にレコーディングする為に、集められたメンバーと考えてもよいでしょう。
バンドに様々な個性がない事が、より統一感を出している要因であると思います。
楽曲とトランペット・サウンドの完全調和
このアルバムを聴いて思う事は、楽曲に関してはこの上なくガッチリ作られていて、『トランペット・パート』は自由にプレイされていて最高に心地よいです。
これは最初に楽曲のみを用意して、後から『マイルス・デイヴィス』がトランペット・パートのインプロヴィゼーションを加えて完成させたようです。
『バラードや歌うようにプレイを行う事を得意とする』マイルス・デイヴィスだからできる素晴らしいプレイだと思います。『間の取り方や半音階の使い方』が絶妙です。
まさに『楽曲とトランペット・サウンドの完全調和している類を見ないアルバム』だと思います。
Albumlist |
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1. Tutu |
2. Tomaas |
3. Portia |
4. Splatch |
5. Backyard Ritual |
6. Perfect Way |
7. Don’t Lose Your Mind |
8. Full Nelson |
Players |
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Miles Davis – Trumpet |
Marcus Miller – Bass, Guitar, Synthesizers, Drum Programming, Bass Clarinet, Soprano Sax |
Jason Miles – Synthesizer Programming |
Paulinho Da Costa – Percussion (1, 3, 4, 5) |
Adam Holzman – Synthesizer (4) |
Steve Reid – Percussion (4) |
George Duke – Percussion, Bass, Synthesizer(5 Only) |
Omar Hakim – Drums, Percussion(2 Only) |
Bernard Wright – Synthesizer (2, 6) |
Michał Urbaniak – Electric Violin (6) |
Billy Hart – Drums, Percussion |
楽曲解説
1. Tutu
ずっしりとした重みのグルーブ感のある楽曲。
アルバムのオープニングにぴったりな楽曲。タメがj効いているが、『オーケストラルヒット』などを使用してインパクトあるアレンジを行っている。『マイルス・デイヴィス』の『トランペット』の間の取り方は完璧です。
2. Tomaas
怪しげなダーク・フィーリングが心地よい楽曲。
エキゾチックなパーカッシブなリズムに、『ストリングス』でストーリー・テラーのようなメロディーが入ってきて独特な世界に引き込めれそうになります。要所で『ファンキーなカッティング・ギター』を入れていて素晴らしいアレンジだと思います。『マイルス・デイヴィス』のスリリングな『トランペット』の吹き回しがとても見事です。
3. Portia
悲しげなメロディーのアンサンブルが美しい楽曲。
『マーカス・ミラー』の『ソプラノ・サックス』がまるでもう一人の『マイルス・デイヴィス』であるかのようにプレイしていて統一感を感じます。「間を取ってプレイしているマイルス・デイヴィス』と『フラッシーなプレイを行うマーカス・ミラーのプレイのバランス』『要所のメロディーでのアンサンブルが美しい』と思います。
4. Splatch
ダイナミックでパワフルなポップ・ソング。
パワフルでエッジの効いたグルーブとメロディーに遊びがあるフィーリングがユニークに響いていると思います。『プリンス』のようなシンセサイザー・サウンドが印象的です。
5. Backyard Ritual
クールで悲しげな味わいがあるポップ・ソング。
『ジョージ・デューク』の楽曲。シンプルににメロディーを繰り返していて、曲の流れに沿うようにプレイしていますが、『マーカス・ミラー』の『バス・クラリネット』が印象的に響きます。
6. Perfect Way
当時のニュー・ウェイブ・ポップスらしいタイトでインパクトがあるポップ・ソング。
『スクリッティ・ポリッティ』の『カバー・ソング』。原曲に近いアレンジで演奏されているが、「TUTU」のアルバムのピッタリ馴染んでる。ノリが良くインパクトもあるので、ライブ向きな楽曲だと思います。『ドラム・サウンド』は『プリンス的』でタイトにカッコいいアレンジです。
7. Don't Lose Your Mind
ダークでレゲエ風なアレンジが独特な楽曲。
『ダークでレゲエ風』なリズムに乗って、『マイルス・デイヴィス』はかなりフラッシーにトランペットを吹きまくっていて、『エレクトリック・バイオリン』のソロが異物感的に響いていてユニークなサウンドに仕上がっていると思います。
8. Full Nelson
プリンス的なファンキーでパレード・ソング的な楽曲。
『カッティング・ギター』がファンキーさを強調しているが、『マイルス・デイヴィス』がトランペットを吹くことで、『マイルス・デイヴィス』の楽曲になってしまうトランペット・トーンの存在感があります。聴いていて心地よい楽曲だと思います。
もしこのアルバムを気に入ったようでしたら、次作の『アマンドラ』もオススメします。当時流行っていたバンド『カッサブ』の音楽要素『ズーク』を加えたりして『TUTU』のダークなフィーリングから、少しトロピカルなフィーリングで『TUTU』を前進した様な素晴らしいアルバムです。
『TUTU』は凄い完成度を誇っているアルバムですが、やはりこれらの楽曲が最大限に発揮するのはライブだと思います。ただ一つのバイブルとして今でも輝きを放っているアルバムだと思っています。
マイルス・デイヴィス関連記事はこちらになります。
『静寂なフュージョン・ミュージックの幕開け『In A Silent Way』 / Miles Davis』
『ハイテンションで破壊的なパフォーマンス『Live At The Fillmore East, March 7, 1970: It's About That Time』 / Miles Davis』
『タイトでクールなファンク・サウンド『A Tribute To Jack Johnson』 / Miles Davis』
『反転的なコンセプト・アルバム『Live-Evil』 / Miles Davis』
『クールで熱いライブ・アルバム『We Want Miles』 / Miles Davis』